台湾茶業の専門用語の中に、耳にしただけで思わず微笑んでしまう言葉があります。それが「脱ズボン茶(脫褲茶)」です。この一見すると滑稽な名前の裏には、鹿谷の茶農たちが最も触れたくない苦い記憶――品評会での落選体験が隠されています。
想像してみてください。茶農たちは不安と期待を胸に、精魂込めて仕上げた茶葉を品評会に出品します。審査員からの高い評価を願い、栄誉を夢見ます。しかし結果が発表されると、基準に届かなかった茶葉はその場で「包装を剥がされ」、茶農のもとへ返却されるのです。この公開の場での「脱ズボン」のような屈辱感が、やがて「脱ズボン茶」という呼称を生みました。
22斤の運命の賭け:希望から失望へ
「脱ズボン茶」を理解するには、鹿谷郷の独自の品評会制度を知る必要があります。かつては「茶農は自宅で一斤ずつ紙に包み、合計22斤を一件として出品」しました。この22斤は茶農にとって一季節分の労苦と希望そのものです。
内訳はこうです。「1斤は審査や試飲販売用、もう1斤は農会に低価格で買い上げられ宣伝用」とされ、残りの20斤が高値販売を期待される本商品でした。
さらに緊張を高めるのは「農会職員が22包の中から無作為に1包を抽出して審査する」という抽選方式。つまり実力だけでなく運も大きく影響し、「運次第で明暗が分かれる」制度だったのです。
茶農にとって22斤を提出する瞬間は、まるで賭けに出るような心境でした。それは栄光の扉を開くか、あるいは人前で「脱ズボン」されるかの分かれ道でした。
封印の栄光と「脱ズボン」の屈辱
鹿谷の品評茶制度では、包装は単なる保護材ではなく「品質の証明」でした。「入賞茶には農会が封印を貼り、品質保証を示す」。この封印は茶葉の身分証であり、茶農の誇りでした。
しかし基準に届かない茶葉は逆に「羞恥の象徴」となります。制度は公平性を期すため、「22斤を一括して農会に預け、審査落ちした場合は包装を剥がして返却」と定めました。
目の前で自らの茶葉の包装が一つひとつ剥がされ、裸の散茶が露わになる光景――それはまさに「公開の場でズボンを脱がされる」ような屈辱であり、この状況から「脱ズボン茶」という名が生まれたのです。
淘汰茶の現実:誰も口にしたくない品質ラベル
「脱ズボン茶」の存在は、鹿谷品評会の厳格さを示しています。農会の制度では「落選に下限はなく、基準を満たさなければ即淘汰」とされました。この徹底した方式が高品質を保証する一方で、多くの茶農に苦い烙印を押しました。
落選茶は「脱ズボン茶」というレッテルを背負い、市場での評価も下がりました。実際の品質が必ずしも劣るわけではないのに、心理的影響から正規価格で売るのは難しく、低価格で流通したり自家消費に回されるのが常でした。
包装の進化史:尊厳を守るために
興味深いのは、制度の発展と共に包装が進化し、羞恥感を和らげた点です。
1976年当初は「道林紙の四角包みに封印」という簡素な形で、剥がされる様子はあからさま。
1981年には印刷袋、1985年からは「アルミ箔+外箱」、1986年からは「半斤缶+紙箱」と高級化が進みました。こうして「脱ズボン」の場面は徐々に目立たなくなり、茶農の心情を少しずつ守る工夫が凝らされました。
1980年の「封印争奪事件」
この「脱ズボン茶」問題の深刻さは、1980年の事件に表れています。春茶展で等級情報が早期に漏れたため、農林庁は「会場当日まで封印配布を禁止」。ところが当日、封印を巡って争奪戦が勃発したのです。
これは封印が単なる紙ではなく、「高値販売の保証と茶農の名誉」だったことを物語ります。逆に封印を得られなければ「脱ズボン茶」と見なされるため、茶農たちは必死になったのです。
包装作業の秘密性
鹿谷の品評会は厳重な秘密主義で運営されました。「包装作業に関わる人選は口の堅い者に限られ」、また「包装後は深夜に鹿谷国小へ搬入し、夜通しで守った」といいます。茶農たちはただ結果を待つしかなく、封印を得るか脱ズボンか――その運命を委ねました。
品評会文化の知恵と成長
「脱ズボン茶」は厳しい制度の象徴であると同時に、茶農の成長を促す装置でもありました。落選の屈辱は技術向上の原動力となり、鹿谷が台湾茶業の中で重要な地位を築く基盤ともなったのです。
さらに、失敗を自嘲的に笑い飛ばす茶農の姿勢は、彼らの強靭さとユーモアを示しています。敗北を経験した者ほど、次の成功の甘さを知る――それが鹿谷茶業の底力でした。
結論:羞恥の裏にある成長の鍵
「脱ズボン茶」の物語は、鹿谷茶郷の歴史の縮図です。屈辱の背後には、品質への執念、栄誉への渇望、そして挫折を乗り越える強さがあります。
今日、凍頂烏龍茶が台湾茶の象徴的存在となったのは、この厳格な競争制度のおかげでもあります。次に凍頂烏龍茶を味わうとき、「脱ズボン茶」と呼ばれた影の存在にも思いを馳せてみてください。その存在こそが、茶業を前進させた見えない支柱なのです。