台湾茶業の「武林」には、五大門派が存在します。伝統派の青心烏龍、新秀派の金萱(台茶12号)、実力派の翠玉(台茶13号)、草根派の四季春、そして歴史最古の軟枝烏龍です。それぞれが独自の「武功秘伝」――香り・味わい・適応力を持ち、忠実なファンを抱えています。
では、この静かな品種戦争で、真の王者は誰なのか? 百年の伝統を背負う青心烏龍か? ミルク香で市場を席巻した金萱か? 野姜花の香気をまとう翠玉か? 四季を通じて収穫できる四季春か?
ここでは五大門派の「正体」を解き明かし、その魅力を徹底分析します。
伝統派掌門:青心烏龍の百年功夫
茶葉界に盟主がいるなら、最有力候補は青心烏龍です。台湾伝統品種として最も深い歴史を持ち、凍頂烏龍茶をはじめ台湾烏龍茶の品質基準を築きました。
- 樹形:小型で枝葉密生、葉は楕円形。内に秘めた力を感じさせる姿。
- 生育:晩生種でゆっくり育ち、成分を多く蓄積。
- 香気:茉莉花や桂花を思わせる高雅な香り。
- 市場地位:比賽茶(競技茶)の主役であり、品質の象徴。
新秀派の明星:金萱のミルク香伝説
金萱(台茶12号)は、消費者を虜にした「奶香」で一躍有名になりました。新世代の象徴です。
- 樹形:横張り型、中生種。開放的で親しみやすい。
- 香気:花香+独特のミルク香。低温では甘蔗糖香が強調。
- 味わい:甘醇で微かな苦甘味。
- 市場性:親しみやすい香りで幅広く普及。台湾茶現代化の旗手。
実力派:翠玉の野姜花フレーバー
翠玉(台茶13号)は地味ながら確かな実力を持つ品種です。
- 樹形:直立型、中生種。真っ直ぐで堅実な印象。
- 香気:醇厚で、野姜花を思わせる清新な香り。
- 市場性:知名度は高くないが、茶農から高評価。安定性・適応力に優れ、プロ向け市場で存在感を発揮。
草根派:四季春の庶民的魅力
四季春は五種の中で最も庶民的です。政府育成種ではなく「農民選抜品種」という出自を持ちます。
- 特性:一年を通じて収穫可能。収益性が高く茶農に愛される。
- 味わい:醇厚でわずかに渋みあり。
- 香気:鮮花香と茉莉花香が強い。
- 市場性:高産量・安定品質で大衆市場を支える。
歴史派の長老:軟枝烏龍の伝承力
1885年、林鳳池が福建から持ち帰った烏龍茶の始祖。台湾茶のDNAを背負います。
- 市場逆転:当初は金萱が主流だったが、軟枝烏龍の貯蔵性・陳化力が評価され、再び主役に。
- 価値:ブランド性の高さと熟成ポテンシャル。高山茶の象徴。
市場戦略:それぞれの舞台
- 高級市場:青心烏龍(伝統的高品質)。
- 大衆市場:金萱(親しみやすいミルク香)。
- プロ市場:翠玉(鮮明な香気)。
- 実用市場:四季春(高収量・安定)。
- 高山精品市場:軟枝烏龍(熟成価値)。
技術門檻と適応力
- 青心烏龍:高難度だが最高品質。
- 金萱・翠玉:適応力と収量のバランス良し。
- 四季春:最も強健で初心者向き。ただし高品質化には技術要。
- 軟枝烏龍:環境適応に敏感だがポテンシャル最大。
結論:王者はいない、多様性こそ宝
五品種を比較すると、単一の「王者」は存在しません。むしろ、それぞれの個性が台湾茶の多様性を形づくっているのです。
- 青心烏龍=伝統の守護者
- 金萱=革新の開拓者
- 翠玉=プロが愛する実力派
- 四季春=庶民に寄り添う茶
- 軟枝烏龍=歴史と未来を繋ぐ長老
真の勝者は、この多様性を享受できる「私たち愛飲者」なのです。