台湾省茶業改良場に足を踏み入れると、そこには貴重な歴史記録が保管されています——「台茶1号」から「台茶18号」までの完全な育種記録です。
これら18の番号は、単なる18の茶樹品種を意味するだけでなく、台湾茶業が約100年にわたり築き上げてきた科学的育種成果と革新精神を象徴しています。
1969年に台茶1号〜3号が命名され、1983年には14号〜17号が登場。すべての番号の背後には、厳密な研究と多くの茶業関係者の努力が込められています。
これは、茶樹を台湾の風土に適応させ、消費者のニーズに合致させるために、いかに科学が貢献してきたかを物語るストーリーです。
育種の年表をたどりながら、台湾茶品種開発の豊かな成果と、その背後にある科学的原理と市場の洞察を紐解いていきましょう。
育種の出発点
台湾の茶樹育種に関する正式な記録は1910年まで遡ります。
当時の平鎮茶業試験所(現・茶業改良場)は、種子播種と選抜育種を開始しました。そして1918年には、台湾茶史における重要な4大優良品種——青心大冇(ちんしんだいまお)、大葉烏龍、硬枝紅心、青心烏龍——を選定しました。
これらは台湾茶の基盤となる品種であり、特に青心烏龍は烏龍茶の製造に最適と認定されました。
戦前は青心烏龍の栽培が主流でしたが、戦後は緑茶中心の生産体制に変わり、青心大冇の栽培面積が急増。1953年には青心烏龍を上回る面積となりました。
この変化は、台湾の茶業戦略が時代とともに調整されてきたことを示しており、科学的育種の重要な土台ともなりました。
第1段階:基礎期(1969〜1975年)
台茶1号(1969年命名)は、台湾における科学的育種の起点であり、青心大冇とKyangの交配種です。
樹勢が非常に強く、横張り型で、手摘み収量は4,377kg/haに達します。病害虫への耐性、耐旱性に優れ、紅茶・眉茶・烏龍茶の製造に適し、主に台湾北西部に適応します。
台茶2号は、大葉烏龍とJaipuriを交配した品種で、収量はやや少ない(3,742kg/ha)ものの、1号と同様の優れた耐性を持ちます。
台茶3号は紅心大冇×Manipuriの交配種で、芽吹きは中庸、樹勢は強く、直立型です。烏龍茶・緑茶・包種茶といった多様な製茶に適し、台湾の茶多様化に貢献しました。
1973年には台茶4号〜6号が登場。
台茶4号は3号と同様の交配親を持ち、萌芽が遅く、花蓮など東部地域に適応。
台茶5号は福州系の自然交雑によるもので、早萌芽で高山茶区にも対応。
台茶6号は青心烏龍系の自然交雑から生まれ、耐旱性が高く北西部茶区に最適です。
第2段階:専門化発展期(1973〜1975年)
この段階では、特定用途向けの品種育成が本格化しました。
台茶7号・8号(ともに1973年)は紅茶専用品種として開発。
7号はShan系の単株選抜で、驚異の13,223kg/haという最高収量を誇ります。
8号はJaipuri系単株からの選抜で、収量7,959kg/ha。どちらも台湾中東部地域に適応しています。
台茶9号・10号(1975年)は緑茶と紅茶向けで、それぞれ台東・花蓮に適応。
台茶11号は台湾北東部に特化して育成されました。
第3段階:烏龍茶黄金期(1981〜1983年)
1980年代、台湾茶業は烏龍茶の黄金期を迎え、育種の焦点もそれに合わせて変化しました。
台茶12号(金萱)(1981年)は、台農8号と硬枝紅心の交配により生まれた、烏龍・包種茶向けの代表品種です。ミルクのような香りが特徴で、消費者の間で爆発的な人気を博しました。
台茶13号(翠玉)(1981年)は、硬枝紅心と台農80号を交配し、花香と甘みを持つ高評価品種。金萱とともに、台湾の現代茶業を象徴するツートップとして位置付けられています。
この2品種は、台湾茶の風味を革新し、現代消費者の味覚トレンドを牽引しました。
第4段階:精緻化・多様化発展(1983年)
1983年には、台茶14号〜17号の4品種が一挙に発表されました。
台茶14号は台農983号×白毛猴の交配種で、中北部および高山半発酵茶区に対応。
台茶15号も同じ親を持ち、中低標高の中級半発酵茶や白茶製造にも対応するなど、用途の幅が広い品種です。
台茶16号・17号は台農335号×台農1958号の交配から生まれ、極早萌芽・強い樹勢を持ちます。
16号は北部の早春緑茶・夏季寿眉茶に適し、17号は中規模の半発酵茶大量生産区に対応します。
基準品種:青心大冇・青心烏龍
青心大冇と青心烏龍は、台湾を代表する伝統的品種として、台茶育種の基準(対照)品種です。
青心大冇は樹形・葉形が明確で、烏龍・緑茶・包種茶に対応し、全土で広く栽培されています。
青心烏龍はやや弱い樹勢ですが、烏龍茶製造において最高品種とされ、西部および高山茶区で多く見られます。
両品種は多くの台茶番号品種の遺伝的基盤でもあります。
科学的育種の要素
台湾の茶樹育種では、交配・単株選抜・自然交雑などの手法が用いられます。
重要視される要素は以下の通りです:
- 適応性:地域気候・土壌に応じて、低地から高地まで幅広く対応。
- 収量性能:2,312〜13,223kg/haの範囲で、経営モデルに応じた選択が可能。
- 耐性特性:病害虫・干ばつへの耐性を強化し、安定生産を実現。
- 適製性:市場ニーズに応じ、紅茶・緑茶・烏龍茶などの製法別に開発。
品種普及の市場成果
**金萱(台茶12号)と翠玉(台茶13号)**の成功は、科学的育種の価値を明確に示しました。
台湾国内で高い人気を誇り、海外でも台湾茶のブランド力を高める要因となりました。
金萱のミルク香、翠玉の花香という個性的な香味は、従来の烏龍茶とは異なる新しい体験を提供し、現代消費者の要求に応えました。
育種の現在と未来
現在も育種は進行中で、気候変動・市場の変化・機械化・有機栽培など、時代の要請に応じて改良が続いています。
品質の安定性、機械収穫適応、環境への順応性など、多角的な視点から、未来の台湾茶を支える品種開発が進められています。
台茶品種の遺産
台茶1号〜18号の育種は、台湾茶業が伝統農業から現代科学農業へと進化してきた軌跡を物語ります。
すべての品種が特定の使命を背負い、台湾茶の多様な遺伝資源を築き上げています。
これらの成果は、品質・収量の向上とともに、台湾茶の国際競争力の強化にも寄与しました。
これからも、台湾茶業は伝統の継承と革新の両輪で、新時代に適応する高品質な品種を育て続けていくでしょう。